井上尚弥選手がS.バンタム級の王者、フルトンと対戦した場合、勝敗はどうなるのか。予想してみます。フルトンは身体能力とIQの高い、スリックな選手です。もしかしたら…という怖さがあります。井上選手がこのタイプの難敵をどう攻略するのか。新たな一面を見せてくれるかもしれません。
目次
両者の基本データは
井上尚弥
年齢:29
身長:165cm(-4)
リーチ:171cm(-8)
試合数:24(24-0)、ラウンド数:138
勝率:100%、KO率:87.5%(+49.4)
一試合平均R:5.75
上位%(バンタム級):0.10%(1/990)
S.フルトン
※S.バンタム級
年齢:28
身長:169cm(+4)
リーチ:179cm(+8)
試合数:21(21-0)、ラウンド数:143
勝率:100%、KO率:38.1%
一試合平均R:6.81
上位%(S.バンタム級):0.081%(1/1229)
※出典:boxrec
体格差がどうでるか
フルトンが身長で 4cm、リーチで 8cm 上回る。
だが、単純に身長やリーチで上回る方が有利、とはならない。
相手との違いを自分有利に繋げる「心技体+ボクシングIQの高さ」により優劣が決まるのだ。
同様に、KO率が高い方が有利にもならない。
もちろん、KO率の高い選手の方が、パンチが強く攻撃力が高い。ただし、それら以外の変数もあり、対戦相手の質、体格差、ボクシングスタイルの違いによっても、KO率は変わってくる。リスクを下げ、判定勝ち狙いのボクシングスタイルを選択すれば、パンチが強くても必然的にKO率は下がるのだ。
フルトンの怖いところは、心技体に加え、ボクシングIQが高そうな点だ。
※ローマン戦では、Sweet Science を体現した、と評された。
階級を上げる影響は
井上選手が階級を上げる影響がどうなるか。
井上選手がバンタムに上げた時と同じように無双する、という意見がある。
だが、その時とは状況が違う。
S.フライ⇒バンタムは、非適正階級⇒適正階級であった。そのために、井上選手のパフォーマンスが劇的に上がった。今回は、適正階級⇒適正階級(非適正階級よりの適正階級?)ということになり、井上選手のパフォーマンスが(前回のように)劇的に上がることはまずないだろう。
大きな一流選手に勝つのは…
超絶技巧を有するロマチェンコが、ライト級では苦労している。
相手が明らかに大きいためだ。
相手が自分より大きくなると、それだけで自分のリソースを多く消費することになる。
攻撃では、より深く踏み込まなければいけない、守備では相手の攻撃力が高くなる、1発から受けるダメージも大きくなるので、許容できる被弾数が少なくなり、より守備に労力を割かなければいけなくなる。体の押し合いでも、より体力を使うことになる。さらには、攻防の局面でからだのバランスを保つことにもリソースを消費する。
自分より大きい一流選手に勝つのは、本当にむずかしいことなのだ。
フルトンは勝っている
実は、フルトンは自分より大きな強い選手に勝っている。
フィゲロアのことだが、彼は身長・リーチで4cmフルトンを上回る。
フィゲロアがフェザーで一流選手かどうかはまだわからないが、マグサヨに勝って暫定王者になっていることから、フェザーでも王者クラスの選手であることは確かだ。ちなみに彼は、S.バンタムでは、ネリにKO勝ちしている。
フィゲロアは、大きなフレームを活かし、被弾上等でターミネーターのようにフルトンを攻め立てたが、フルトンは高いIQと巧みな身のこなし+精度の高いパンチを武器に、競り勝った。この一戦を通じて、強い相手の掌中でも戦えることを示したのだ。
この事実から、フルトンは「かなり強い」としていい。
階級の層の厚さの違い
また、誰も指摘しないが、バンタムとS.バンタムでは、層の厚さに違いがある。
S.バンタムでは、プロの母集団の数がバンタム比で「+24.1%」になる。このレベルでフルトンは、「上位%(S.バンタム級):0.081%(1/1229)」だから、彼も化け物クラスの選手なのだ。
※もちろん、井上選手も化け物クラス「上位%(バンタム級):0.10%(1/990)」である。
層の厚い階級でトップを張っているのがフルトンであり、全く油断できない相手なのだ。
フルトンのジャブが問題に
フルトンは一流の選手で、攻防の技術がかなり高い。
まず、前手が上手い。ジャブは強くはないが、かなり速く射程が長い。
また、バリエーションが豊富で、強弱、射程、軌道を自由に変えることができる。
※ジャブからの鋭いワンツーも、大きな武器になっている。
元統一王者のローマンは、このジャブに上手く対応できず、ポイントを失っていった。
正直、フルトンのジャブに対応する術があるのかどうかわからない。プル・カウンターや被せてカウンターという手段はあるが、フルトンの反応の速さやリーチ差があるのでむずかしいだろう。
※ローマンは、井上選手とほぼ同じリーチである。
井上選手は苦戦する
リング上で両者をみたとき、明らかにフルトン>井上選手なら、苦戦する。
※おそらく、そう見えるだろう。
井上選手はこれまでも大きい相手に勝ってきたではないか、という意見があるが、フルトンはそれらの選手とは全く違う。井上選手の対戦相手に、ここまで技術とボクシングIQが高く、スリックな選手はいなかった。
また、井上選手より明らかに上回る点を複数持つ選手、というのもはじめてだ。
体格はもちろんだが、上体のやわらかさ、反則にならない程度のホールディングやクリンチといった技術、全般的な身体能力もフルトンが上だろう。そのアドバンテージを利用するIQも高いのだから、普通に考えれば井上選手に限らず、同クラスのどんな選手でも苦戦は必至だ。
まずは、両者が得意なジャブの差し合いでどちらが勝つか、に注目したい。
結論
予想としては、以下のどれかだと思う。
1)引き分け
2)井上選手の判定勝ち
3)フルトンの判定勝ち
KO決着はない、と予想する。
井上選手が負けるパターンとしては、ジャブの差し合いでやや負ける(ジャブでポイントが取れない)、中に入っても思うように強打を当てることができない、逆に的確なカウンターをちょこちょこもらいポイントを失う、という展開だ。フラストレーションがたまる展開で負ける、ということになる。
ローマンのようになると、明確に判定負けするだろう。
予想は、引き分けか、井上選手の僅差判定勝ち(ただし、判定負けもある)としておく。
願望としては、井上選手のKO勝ちだ。そうなれば、うれしい。
フルトンに明確に勝って、PFP上位であることを証明してほしいと思う。
※わたしの予想が外れることを祈る。
これまでの対戦相手で比較的技術の高かったモロニー戦で、相手に圧力をかけようとして上手くいかない、というラウンドがあった。あの試合は、何かいつもと違って圧倒できていないな、と感じた。それは、モロニーの技術が比較的高かったためだ。フルトンは、そのモロニーより心技体で上回り、ボクシングIQも高い。
フルトンは、接近戦も上手いので、ジャブをかいくぐって中に入れば勝ち、とならないのがむずかしいところだ。フルトンは、短いパンチの精度も高い。中に入っても、フルトンは分が悪ければ足を使うので、チャンスは少ないだろう。井上選手であれば、その少ないチャンスをものにするのかもしれない。
両者ともに強いだけに、ボクシングファンにとっては、見どころの多い試合になる。
フルトンを攻略して、明確に勝って欲しいと切に願う。