現状を変えたいけれど、変えられない…ということがある。
自分の現状に問題があって、それを「変える必要がある」と頭で認識しているのだが、変えようとしても変えられないのだ。この「現状を変えられない」という事象には、理由がある。
その理由を理解することで自己の認知の歪みを正せば、現状を(これまでよりは容易に)変えることができるようになる。今回は、人が現状を変えられない理由について書いてみたい。
目次
- 目次
- 現状維持バイアスの問題
- 現状を変えたい人にも働く
- 損失を回避したいという気持ちがある
- 変えることで得になると思えば
- サンクコストの問題がある
- なぜ起業家は簡単に中退するのか?
- サンクコストは生死を分ける
- サンクコストが巨大に…
- 現状を変えなければ命を失う
- 保有効果の問題がある
- 捨てられない人は現状を変えらえない
- まとめ
現状維持バイアスの問題
まずは、現状維持バイアスの問題だ。
これは、「現状に不満があり、現状を変えたい気持ちはあるが、今のままでも仕方がない・まぁいいか…」と考えるバイアスのことだ。現状を維持したいという気持ちは、誰にでもある。
現状に不満はあっても、その程度の不満は、何をどう変えても常に存在するものなので、わざわざ現状を変えて(リスクを取って)未知のカオスに飛び込む必要はない…とする気持ちだ。
自分の現状をそこそこだと思っている人や(加齢などにより安定志向が強くなり)チャレンジ精神を失った人には、このバイアスが強く働く。変えてもね…と二の足を踏んでしまうのだ。
現状を変えたい人にも働く
また、自分の現状を変えたいと思っている人にも、現状維持バイアスは働く。
現状を変えることには、リスクがあるからだ。漠とした心配や不安、現状より悪くなるのではないか…という恐れも当然ある。現状を変えると、今より居心地の悪い思いをするかもしれない…。
この恐れやリスクを上回る気持ちがなければ、現状維持バイアスを乗り越えることができない。
損失を回避したいという気持ちがある
人には、損失を回避したいという強い気持ちがある。
損失を避けたいのは当たり前だが、同じ金額の損得であれば、人は「損」の方により強く反応してしまうのだ。
たとえば、1万円得ることと1万円失うこと…どちらが感情のブレ(方向が逆なので絶対値で考える)が大きいだろうか?
損のダメージが大きい
少し考えればわかるが、感情のブレが大きいのは、1万円失うことの方だ。
1万円得た喜びはすぐに消化されるが、1万円損したダメージは、尾を引いてなかなか消化されないのだ。ほめられたことはすぐに忘れてしまうが、人格を中傷されたら、(その相手に対し)恨みや嫌悪感がいつまでも残りやすい…ということと同じだ。
したがって、現状を変えることで損をするかもしれない…と考えると、現状維持バイアスを乗り越えることはむずかしいだろう。
変えることで得になると思えば
逆に言えば、現状を変えることのできる人は、「変えることで得になる」と考えているということだ。
たとえば、仕事が上手く行かない。最悪に近い状態ではないか…と思えば、現状の仕事のやり方を変えることが容易になる。変えたところでこれ以上悪くならないし、うまくいけばよくなる、と思うためだ。
※アップサイドの方が大きい、と考えるため、行動することができる。
サンクコストの問題がある
サンクコスト(埋没費用)の問題については、これまでも何回か書いてきた。
この記事では、恋愛におけるサンクコストを取り上げたが、恋愛にかぎらず、サンクコストは意思決定の場面につきものだ。たとえば、キャリアチェンジする場合だ。
アメリカの起業家には、大学の中退者が少なくない。有名どころでは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグなどを挙げることができる。
もったいない…と思う
日本であれば、有名大学に入って中退すると、必ず親やまわりから「もったいない…」と言われるだろう。これは、(ひとつには)親がそれまでに費やしたコストを考えているからだ。
子供がその大学に入ることを(ある意味)人生の目標にして、幼い頃から努力してきたのであれば、入学するまでに大変なコストがかかっていることになる(さらに、大学の授業料がプラスされる)。そのコストを考えれば、中退するなどナンセンス、という思いから出る言葉だ。
なぜ起業家は簡単に中退するのか?
だが、アメリカの起業家は、いとも簡単に大学を中退する。
なぜアメリカの起業家が比較的簡単に中退をするのかというと、その大学に入ること(及び卒業すること)を人生の目標になどしていない、ということがひとつ(サンクコスト小)。
さらに、「サンクコストを意思決定に反映させてはいけない」と知っているからだ。したがって、大学生を続けるより良い選択肢がある、と確信すれば、簡単に大学を中退するのだ。
※大学の中退を勧めているわけではありませんよ(笑)。
サンクコストは生死を分ける
もうひとつサンクコストの例を挙げよう。文字通り生死を分けるサンクコストの例だ。
エベレスト(8848メートル)の登山には、ガイド付きの商業ツアーがある。費用は高いもので、日本円にして1千万円程度かかる(いずれにしても、高額になる)。
ある登山家が10年かけて費用をため、休職してこのツアーに参加したとする。エベレストの登山は、登頂を狙える位置(8000メートル付近の最終キャンプ)まで進むことが大変だ。頭痛や極度の疲労、体力低下、脳浮腫や肺水腫、低体温症というトラブルを克服する必要があるからだ。
サンクコストが巨大に…
つまり、8000メートル付近の最終キャンプにたどり着き、頂上をうかがう時点で、大変なコストを支払っているのだ。
その登山家は幸運にも恵まれて、最終キャンプ地から頂上にアタックするチャンスを得た。そして、頂上まで高低差であと100メートルの地点までたどり着いた。
あと少しで頂上だ。しかし、時計を確認すると、予定の時間をかなり過ぎている。このまま登頂に成功しても、帰り道がかなり危険になる。※アタックのチャンスは1回のみ。
現状を変えなければ命を失う
登山の継続か撤退かの重大な意思決定が迫られる場面だ。
この意思決定に関与してくるのが、サンクコストだ。1千万円、10年、トレーニングや艱難辛苦を乗り越えるために費やしたコスト…これらのことを考えるなと言っても、無理な話だろう。
頂上は目前なのだ。多少のリスクは承知で、頂上を極めたいと思うのではないだろうか。しかし、サンクコストのことを考えて、現状を維持(アタックを継続)すると、命を失うことになる。
このサンクコストの呪縛から逃れるためには、意思決定を第三者にゆだねるという方法がある。
サンクコストが巨大になると、感情的になり冷静な判断ができなくなる。なのでそんなときは、意思決定を第三者にゆだねた方がいいかもしれない。
※自分では、どうしようもないことがある。
サンクコストが巨大になると、意思決定から完全に排除することはむずかしいのだ。したがって、サンクコストをできるだけ小さくしておく、というのもひとつの知恵ではないだろうか。
保有効果の問題がある
さらに、保有効果の問題がある。
保有効果というのは、自分が所有するモノに高い価値を感じるという(非合理的な)心理のことだ。
これは、先に述べた「失う痛みを強く感じる」ことに関係がある。ちょっとにわかには信じ難いのだが、同じモノであっても、人は手放す際に7倍の価値を感じるそうだ。
※なるほどこれでは、モノを捨てられないわけだ。
何か捨てる必要がある
わたしは、現状を変えるためには、何か捨てる必要があると考えている。
たとえば、恋愛でもそうだ。新しいパートナーを得ようと思えば、現在のパートナーとの関係を清算しなければいけない。結婚すれば、友人との付き合い方は変化する。
家族と過ごす時間が増え、その分だけ友人と過ごす時間は少なくなるだろう。人のリソースには限りがあるため、(トレードオフは)ある意味やむを得ないことなのだ。
捨てられない人は現状を変えらえない
もし、キャパがあっても、何も捨てずにためるばかりでは、エントロピーが増大し、混沌が深まるばかりである。
そのような状態で、何かを変えようとしても、そこへのリソースの集中が上手くいかず(ボケたものになり)、結局意図したように変えることはできないだろう。※シンプルな方がいい。
すなわち、現状を変えられないということは、捨てられないということでもあるのだ。
まとめ
今回は、人が現状を変えられない理由について書いてみた。
1)現状維持バイアスの問題、2)サンクコストの問題、3)保有効果の問題、の3つの問題があるため変えられない。こう考えると、現状を変えることがいかに大変なことかよくわかる。
なんだかんだ現状に不満があっても、愚痴をこぼしながら、既知の現状を維持する方が心理的に楽なのだ。現状を変えられるかどうかは、その人の性格やリスク許容度にもよる。
慎重な性格でリスクを取りたくないと考えていれば、現状を変えようとはしないだろう。
また、同じ人物でも、年齢によってリスク許容度が変化する。若いときに変化を望んでいた人でも、歳を取ると変化を望まなくなることがあるのだ。※加齢とともに、リスクを取りたくなくなる。
しかし、今回述べたような、非合理的なバイアスを思考から排除できれば、現状を(これまでよりは容易に)変えることができるようになると思う。たとえ年齢を重ねても、自己の認知の歪みを正して、外部環境の変化に応じ、柔軟に変化できるようにしておきたいものだ。
行動メモ:
現状を変えるためには、「今のままで仕方がない…」をやめる。
現状を変えるための行動を起こす。
もし、「損をするのが怖い」、「リスクをとって、失敗するのが怖い…」と思い行動を起こせないのであれば、「期待値」を考える。「リターン>リスク」の行動であれば、その行動を繰り返すことにより、「リスクをとって行動してよかった」となる。
※その行動を繰り返すことができる程度のリスクをとる。
サンクコストは無視する。持っている物の価値を、意図的に小さく見積もる。同じ物であっても、保有している物の価値を7倍に高める、ということであれば、1/7倍にする必要がある。
今回の記事:「現状を変えたいが…あなたが現状を変えられない理由」