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井上尚弥の強さの秘密|パンチ力だけではない井上の強さ

井上尚弥という強いボクシングの選手をご存じだと思う。

井上尚弥の強さは本物だ。彼はボクシングという競技の枠を超えて、世界的なスターになる可能性があるし、将来的には世界ボクシング殿堂入りするぐらいの選手になる可能性がある。

すでにPFPのランカーになっているが、今後は、マッチメークがより一層大事になってくる。無駄に強い時期を消費することなく、ファンが望む試合を組めるかどうかが問題になる。

今回は、井上尚弥の強さの秘密などについて書いてみたい。

目次

これまでの実績がすごい

井上尚弥の強さは、これまでの実績が物語っている。

アマ時代の成績は、75勝6敗。48KO・RSC。※勝率は9割3分。6敗しているが、中には「?」の負けもあったようだ。

高校1年で国体、インターハイなど三冠を達成。高校3年で全日本アマチュア選手権などを制し、高校生初のアマチュア7冠を達成している。※それまでは、6冠が最高記録だった。

アマ時代に、前人未到の記録を達成している

※オリンピックには出場していない。アジア選手権で決勝まで進むが、世界選手権で銅メダルを取ったことのある地元の選手に判定で敗れたため、惜しくも出場を逃した。

プロ入り後

プロ4戦目で日本タイトルを獲得。

5戦目でOPBF東洋太平洋タイトルを獲得、6戦目で世界王者になり、8戦目で二階級制覇を達成。それまで159戦してダウンをしたことのないナルバエスから4度ダウンを奪いKO勝ち。

プロ8戦目での二階級制覇は、ワシル・ロマチェンコの7戦目に次ぐ記録になる

さらに、16戦目でWBA世界バンタム級正規王者のJ.マクドネルを倒し、三階級制覇を達成した(ロマチェンコは12戦目に達成…)。現在まで、17戦17勝(15KO)という成績だ。

※ロマチェンコの比較対象になること自体、すごいことだ。

※更新日:2018年10月8日

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アメリカデビューに成功

2017年9月、井上尚弥アメリカデビューに成功した。 

ロマゴンとシーサケットがメインで、井上はセミファイナルで試合を行った。

結果は、7位のアントニオ・ニエベスに6回TKO勝ち。大方の予想通りとなり、6度目の防衛に成功した。

傍目には見事な勝利だったが、長谷川穂積さんが興味深い指摘をしている。

もっとパンチの強弱をつければ、連打しやすくなるし、持ち前の強いパンチが活きてくる、という指摘だ。たしかに、単調になると相手が強打に慣れる、ということがあるので、この指摘は的を射ていると思う。※パンチに強弱をつければ、さらに相手を倒しやすくなるだろう。

参考:ボディがえぐい…井上尚弥に対する海外の反応と評価

キャリアが長く経験値が高い

井上尚弥は6歳でボクシングを始めているので、ボクシングのキャリアが長い。

父親の指導のもと、正しい身体の使い方やボクシング技術を幼いころから学んでいる

父親の真吾さんは、小さいころから身体の使い方やボクシング技術を覚えるべき、という考え方をとっている。小さいころは基礎体力をつけ、技術は高校以上で…という考え方はとらない。

長い時間をかけて組み立ててきた

それには、子供は頭で理解する前に身体で覚えるから…という理由と、技術を覚えれば、それを大会でアウトプットすることで、上手くできれば達成感を得られるから…という理由がある。

手続き記憶を利用する、ということだ。

井上尚弥が技術面でしっかりしているのは、この考えに基づく指導の賜物だろう。ボクシングに限らずそうだと思うが、高度な技術を自分のものにするには、かなり長い時間がかかるのだ

武井壮が語る井上尚弥の強さ

井上尚弥の「運動を処理するスピードの速さがケタ違い」だと評価している。

以下は、武井壮井上尚弥の強さに関するコメントと評価だ。

1秒間に何個の運動をしようかという、縦割りの区割りがすごく細かくできる選手(これは、運動の処理がすさまじく早いためにできることだ)。

他の選手が、「よし隙がある打っていこう」と考える間に、

このへんに打ってきそうだから、ここにパンチを引っ掛けて、そのあと右打って、そのあとボディ打ったら入るんじゃないかな、でもちょっと待てよ、(相手が)あやしい動きしているから、どうしようかな、一旦よけて左からカウンター入れてみようか…このぐらいは考えている。

身体で反応し一瞬で動ける

これらのことを言葉にせずに、身体で反応して一瞬で動いている…と評価している。

具志堅用高氏も、井上はボクシングを知り尽くした上で、(あれこれ考えるよりも)身体で反応し打ちに行くからパンチが当たる、と評している。※手続き記憶が半端ないのだろう。

普段の生活の中に秘密がある

なぜそんなことができるのか…それは、普段の生活の中に秘密がある、としている。

お父さんが授けたトレーニングメニューの中に、そのための「何か」が含まれているか、普段の生活の中に、何か早く処理しなければいけない行動が含まれているか…ということだ。

練習時間は限られている。その練習時間以外の時間に、どれだけ頭を働かせて身体を使うかによって、スポーツ選手の能力はほぼ決まるそうだ。スポーツに役立つ身体の使い方、ということだ。

したがって、生活の中に何か他のボクサーを上回る要素がある、と考えられるそうだ。

※以上は、武井壮井上尚弥が世界チャンピオンになる前の評価です。

生活の中にボクシングがある

この想像は当たっていると思う。普通のボクシング選手は、試合後しばらく休むそうだ。

特に世界戦などの大きな試合では、仮に試合で肉体的なダメージがなかったり、少なくても、準備~試合終了までの間、選手には大きな負担がかかる。なので、試合後はしばらく休むのだ。

だが、井上尚弥の場合は、試合の翌日に他の選手のボクシングの試合を観戦したり、二日後にロードワークをしたり、ということが普通にあるそうだ。もちろん、誰かに強いられてそうするわけではなく、「自分はもっと強くなりたい…」という一心で、自分から自然な形で行うそうだ。

このエピソードからも、井上が普通のボクサーとは違うことがわかる。

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井上尚弥のフィジカルは

井上尚弥のフィジカル面はどうだろうか。

2013年にプロデビュー4戦目を控えた当時20歳の井上の体力測定を行ったところ、左手の握力は47.8kg(一般人の平均は46kg)、瞬発力を測る左右への動きは54回(一般人平均値は48回)、身体の柔軟性を測る長座前屈に至っては43cmと一般人の平均値45cmを下回っていた。唯一、体幹のみが突出して強かったが、それ以外の筋力や反射神経、動体視力などの数値は一般人とさほど変わらない普通のレベルだった。
出典:井上尚弥 - Wikipedia

柔軟性に欠ける、というのは、かなり意外だ。

一流のスポーツ選手というのは、例外なく柔軟性に優れる…と思っていたが、間違いなのかもしれない。もしかすると、その柔軟性と引き換えに他の能力が伸びている…ということも考えられる。

トレードオフがあるかもしれない。伸びたのは(後述する)体幹の強さかもしれない

抜群の身体能力を持つわけではない

握力は平均よりやや良い程度だが、さすがに瞬発力はあるようだ。

父親の井上真吾さんは、井上尚弥のことを運動神経にはそれなりに恵まれているが、「抜群の身体能力を持つタイプではない」と評価している。ずば抜けた(肉体的な)資質はないそうだ。

反射神経や動体視力も一般人と変わらないようだ。これも意外だ。

※テニスの錦織も、体力測定ではいい成績を残すことができていない。もしかすると、個々の能力よりも、つながりが大事なのかもしれない。各能力の連携の具合が問題なのかもしれない。

体幹の強さに特徴がある

ただし井上尚弥の場合、体幹の強さに特徴がある。

井上家では、自家用車を押すトレーニングをしているそうだ。

ゆるい傾斜のある坂を利用し、坂の下から坂の上まで自動車を押し上げるそうだ。重い車でも、一度動き出すと、慣性の法則により、押すのが楽になってくる。その楽さを打ち消すために、車に乗っている父親がブレーキを踏むそうだ。※このブレーキのことを「愛情ブレーキ」という。

このようなトレーニングが、筋力アップ+体幹の強さにつながっているのかもしれない。

体幹の強さは、バランスを保ったり、パンチを打ち抜くために必要になる。

アイスピックが刺さっているように

自分は最も注目すべきところは、アイスピックが刺さってんじゃないかと思うくらいの足腰の強さと安定感です。普通、世界戦レベルでもリゴンドーでも無い限りは大概は足がぶれたりしてバランスが崩れてる場合がかなりのボクサーでもあります。それは相手も当然、技術が半端無いので当たり前の事でもあります。しかし井上に関してはそれが全くと言っていいほど無いんですよね。

出典:井上尚弥のすごさについて|ホーチミンでキックボクシング

井上は、足腰の強さと安定感が半端ないそうだ(足のブレやバランスの崩れがない)。

素人目でみても、「バランスがいいな…」ということは感じるが、見る人が見れば、さらに色々とわかるのだろう。このあたりも、筋力の強さとともに、体幹の強さが関係しているのだろう。

打たせずに打つディフェンス

井上尚弥は、打たせずに打つボクシングをしようとしている。

左手1本の試合の中にも進化の跡が見えたという。
「井上は、これまでステップバックを主にしたディフェンスだったが、この日は、ヘッドスリップやスウェー、ブロックなど、より相手との距離が近い中での新しいディフェンス技術を見せた」
出典:井上尚弥がまた怪物伝説。両拳を痛めながらもダウンを奪い大差V2!

打たれると、脳や身体にダメージを受けることになるためだ。

ボクシングのディフェンスは奥が深く、ウィービング、ダッキングスウェーバックブロッキング、パーリング、ステップワークなどがある。これらの組み合わせでディフェンスを行う。

攻防一体を具現化できる

井上尚弥の強さ・凄さは、攻防一体を具現化できることだ

左フックのところでも述べるが、スウェーでかわしてから左フックを放つ、ヘッドスリップからストレートでカウンターを入れる、という(芸術的な)攻防一体の動きができるのだ。

※高いレベルで攻防一体の動きができる選手は、そう多くない。

左フックが強い

井上尚弥の得意は、左フックだ。

「フックと同じ動き」と話す腕相撲では、利き腕の右より、左の方が強い。その持ち前のパワーをさらに生かすのが、相手の「こめかみ」を的確に捉える技術だ。「人さし指と中指の付け根を相手のテンプルにねじ込むイメージ」と話す。試合に向けたスパーリングでは、被弾したパートナーが軽い脳振とうを起こし、足をもつれさせながら倒れるシーンを何度も作った。
出典:日刊スポーツ 井上尚弥、怪物左フックでこめかみ捉えKO防衛だ

井上の場合、腕相撲は左の方が強いそうだ。

そして、「人さし指と中指の付け根を相手のテンプルにねじ込むイメージ」で打ち込む。

井上尚弥の左フックには、バリエーションがある。

いきなり打つこともあるし、バックステップで誘ってから打つこともある。また、右を意識させて打つこともある。相手のパンチをスウェーでかわしてから、そのためを利用してカウンター気味に放つ左フックもある。バリエーションが豊富であるため、相手は対応がむずかしくなるのだ。

芸術的な左フックは練習の賜物

ちなみに、相手のパンチをスウェーでかわしてカウンター気味に放つ左フックは、練習の賜物だそうだ。

普通の選手であれば、スウェーでかわすことで精一杯かもしれないが、明確なイメージをしながら練習を長時間重ねることで、あの芸術的な動きができるようになるそうだ。

攻防一体でカウンターをキレイに打てるボクサーは、質の高い練習を長時間行っているのだ。見ている方は、天才とか天性のセンスで片付けてしまいがちだが、実際はそうではないのだ。

井上尚弥のパンチ力は

井上尚弥には、パンチ力がある。

ナルバエスのトレーナーが、試合後、(ナルバエスが)こんなに簡単にダウンするとは信じられない、グローブに細工をしているのではないか、とクレームをつけたエピソードが有名だ。

※鉛などを仕込んでいるのでは…と疑われた。

ナルバエス自身は、「二階級下だった選手のパンチだとは思えない」というコメントを残している。それまで159戦してダウンをしたことがなかっただけに、井上のパンチ力に驚愕したのだろう。筋力と体幹の強さにより、体重の乗った強いパンチを打てるのではないだろうか

※井上のパンチは、無駄なく相手に伝わっている。そういう工夫もしているようだ。

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井上尚弥の課題が見えた試合がある

井上の底はまだ見えないが、課題が見えた試合はある。

ここ数試合を見ると、拳を痛める問題はクリアしたようだ。

残る課題は、ディフェンス面だろうか。

攻撃が粗くなると、マクドネル戦のようにカウンターをもらうことになる。

また、相手が井上のスピードやパンチの強さに慣れ攻勢に出たときどうするのか、という問題がある。井上にはかつて、接近戦でパンチをもらう、足や上体の動きを止めたときに、棒立ちで不用意にパンチをもらう…というシーンがあった。試合中の集中力に、ムラを感じることもあった。  

 

強い相手と戦う 

強い相手以外とは戦わない

強い相手以外とは戦わない、というフレーズが有名だ。

このことは、井上本人の希望でジムとの契約書にも入れたそうだ。「強い相手と戦う」、「弱い相手とは戦わない」というのは、見栄やカッコをつけてそう言っているわけではない。

勝てる、とハッキリわかっている相手と戦うことには、1)弱い相手に勝っても、それほど意味がない、2)選手のモチベーションなどにマイナスに働く、という理由があるためだ。

同等かやや上の相手という意味

また、強すぎる相手とやっても意味がない。

同等の相手かやや上の相手と戦うことに意味がある、ということだ。

ただ、世界王者になると、(かならず)防衛戦で自分より力の落ちる相手と戦うということがある。そのときは、その戦いに意味を持たせるために、テーマを設定して戦うことになる。

井上尚弥がS・フライ級でチャンピオンになるまでは、ロマゴンは(世界戦の実績や経験値の差などからも)強すぎる相手ということになり、戦うのは時期尚早ということだったと思う。

参考:井上尚弥のバンタム級のライバルたち - 次戦の相手は 

会長にはチャレンジ精神がある

井上のジムの大橋会長自身が、最強の相手と戦っている。リカルド・ロペスのことだ。

リカルド・ロペスは、アマで40戦、プロで52戦して無敗で引退した伝説の選手だ。

両者の対戦時は、大橋会長がチャンピオンで、ロペスが挑戦者という位置づけだったが、ロペスは(アマ40戦無敗+)プロ26勝無敗で、「軽量級最強」という評価を受けていた。

そのロペスを回避することができたにもかかわらず、あえて「強い選手と勝負したい」ということで、挑戦者に選んだのだ。また、強いチャンピオンである張正九と敵地で戦ったりもした。要するに、大橋会長自身が強い選手と戦いたい、という気持ちを持つチャレンジャーなのだ。

 

井上尚弥の強さの秘密 - サマリー

まとめ

上手くいけば、井上尚弥は日本ボクシング史上、最高の選手になるかもしれない。

井上尚弥の強さに、もはや疑いの余地はない。

ガラスの拳の問題を解決する必要があるが、その可能性がある…というだけでもワクワクする。

もしかすると、すでにそのレベルに手をかけている状態かもしれない。2017年は、井上にとって飛躍の年になるはずだ。井上尚弥の強さを、世界に知らしめて欲しいものだ。

追記:2018年10月~のWBSSが勝負どころになった。

井上尚弥は、2017年9月にまずまずのアメリカデビューを遂げた(自己評価は70点)。ファンや関係者の評価も上々で、世界的なスターになる足がかりをつかんだとしていいだろう。

今回の記事:「井上尚弥の強さの秘密|パンチ力だけではない井上の強さ」