普段、我々が使っているのは、名目金利の方だ。名目金利を気にして、少しでも高い金利の商品に資産を振り分けようとする。その行動は必ずしも間違いではないが、実質金利のことも考えて行動した方がいいだろう。今回は、実質金利を気にした方がいい…ということで書いてみたい。
目次
名目金利と実質金利
たとえば、定期預金をするとき、金利がいくらなのか調べると思う。
今であれば高くても0.25%程度(1年定期)のようだが、この金利のことを名目金利という。ちなみに、英語では「nominal interest rate」という。実質金利は「real interest rate」になる。
名目金利を尋ねている
銀行の窓口で、「今、金利はいくらですか?」と尋ねることがあると思う。
それは「今、名目金利はいくらですか?」と尋ねていることになる。仮に「名目金利はわかりました。では、実質金利はいくらですか?」と尋ねても、まともには答えてくれないだろう(笑)。
実質金利とは
実質金利の意味は
インフレ率とは物価上昇率のことだ。
インフレのときは、モノやサービスの値段が上がる。前年からモノやサービスの値段が3%上がったのであれば、物価上昇率=インフレ率=3%になる。ちなみに日本銀行は、2%の物価上昇を目指している(いた)。
日銀が行う金融政策の目的は、 「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」であり、その「物価の安定」とは、物価上昇率=インフレ率=2%を指す…ということだ。
実質金利の求め方は
実質金利の求め方は、極めてシンプルだ。
※近似計算。インフレ率は予想/期待インフレ率を使う。
たとえば、日本のインフレ率はここ3年、2.76(14年) ⇒ 0.79(15年) ⇒ -0.16(16年推定)と推移しているそうだ。この値が正しいと仮定して、0.2%の金利で運用した場合、年毎の実質金利はいくらだったのだろうか。
2014年:0.2-2.76=-2.56%
2015年:0.2-0.79=-0.59%
2016年:0.2-(-0.16)=0.36%
となる。0.2%で運用できた…と思うかもしれないが、14年15年はマイナス金利になっていることがわかる。このように、同じ0.2%で運用しているつもりでも、実質金利は、-2.56~0.36%までの振れ幅がある。微々たるものだが得をしている…と思っても、実は損をしている…ということが普通にある。なので、実質金利を見ることが大事になるのだ。
実質金利を低くしたい
ここまでは、個人の運用の話をしたが、もう少し話を広げてみよう。
個人の資産運用であれば、実質金利を少しでも高くしたい…と思うだろう。
だが、(景気低迷期に)経済をマネージメントする立場であれば、「実質金利を下げたい」と思うはずだ。実質金利が低下すれば、お金をただ持っているだけでは仕方がない(マイナスになることもある)、そうであれば使った方がいいよね…となるためだ。
すなわち、実質金利を下げることは、需要を刺激することになるのだ。
刺激が消費行動を促す
また、実質金利が低ければ、「お金を借りた方がいいよね」となる。
ゆえに、資金需要も増えることになる。身近な例で言えば、住宅ローンの貸出金利だ。
この貸出金利が下がれば、(家をローンで買おうと思っている人であれば)「今この時期にローンを組んで家を買えば有利だ」と思い行動することになる。※刺激が消費行動を促すのだ。
さらに、実質金利を低くすれば、円安につながる。
お金は、実質金利の低い方から高い方に流れる。私たちが少しでも高い金利を求めて預金を動かすことと同じだ。なので、円の実質金利を低くすれば、円買い↓円売り↑で円安になるのだ。
低くするためには…
実質金利を求める式は、実質金利=名目金利-インフレ率(物価上昇率)、だった。
なので、実質金利を低くするためには、1)名目金利を下げる、2)インフレ率(物価上昇率)を上げる、の二択になる。そこで日銀は、名目金利を下げ、インフレ率(物価上昇率)を上げようとしている。
日銀がこれまで行ってきた政策は、質的・量的金融緩和+マイナス金利政策だ。
前者はインフレ率(物価上昇率)を上げようとする政策であり、後者は名目金利を下げようとする政策だ。
当初は、名目金利がすでに「0」に近かったことから、質的・量的金融緩和でインフレ率(物価上昇率)を上げようとしたが、思うように上手くいかず、名目金利というもうひとつの変数を変えようとした…ということだろう。※マイナス金利政策もこの一環だ。
円安はどうなのか
円安の方が都合がいい
上で円安のことに触れたが、
実質金利を低くすることで円安になれば、輸出関連企業の業績が回復するということになる。また、輸入物価が上がり(価格転嫁が進めば)インフレ率(物価上昇率)も上がるということになる。
これが、円安の方が経済にとって良い…とされる理由だ。
円安はどこまで行くのか
円安の話をもう少し掘り下げてみる。
ドル円で、アメリカの政策金利(名目金利)が上がっているのだから、円安になるのは当たり前だ…と思うかもしれない(2017年も3度の利上げが予想されているようだ)。日本の政策金利(名目金利)が上がらないので、両者の名目金利の差が開いていくことになるためだ。
名目金利の差だけ見ると
ただし、コトはそう簡単ではない。
もうひとつの変数であるインフレ率(物価上昇率)がどうなるかわからないからだ。
そこで、インフレ率(物価上昇率)を求めたい…となるのだが、これがとてもむずかしい。
もし、それぞれの国のインフレ率(物価上昇率)をリアルタイムで求めることができれば、両国の実質金利差と為替レートを比較し、行き過ぎがあったときに通貨の売買を行う…という手法で利益を得ることができるかもしれない。
インフレ率(物価上昇率)がどうなるかわからない状況では、円安がどこまで進むのか…ということもわからない。過去の経験則のようなことでしか、わからないのかもしれない。
※125円以上は、むずかしいと考えている。
実質金利が下がれば…
実質金利が下がったら
実質金利が下がれば、どうしたらいいのだろうか。
先に、実質金利が低ければ、「お金を借りた方がいいよね」となる、と書いた。
住宅ローンを組んで家を買うもよし、お金を借りて事業を起こしたり設備投資するもよしだ。
手持ちの現金を投資する、という手段もある。たとえば、REITや株などに投資してリターンの率を高める、という手段がある。さらには、実質金利が高い通貨を買う、という手段もある。金融資産を金などの現物資産にシフトする、という手もあるだろう。
※借金をすすめているわけではない。借金をするのであれば自己責任になる。
無駄な買い物はしない
ただ、気を付けておかなければいけないのが、無駄なことをしない…ということだ。
たとえば、バーゲンセールをやっているから、とりあえず安いものを買っておこう…とすると、不要なものを買って損することが多い(必要がないのに買ったものは、たいてい使わずにゴミ箱行きだ)。
これと同じで、実質金利が低いから、とりあえず…ということで動くと、本末転倒になり、失敗するだろう。
高値掴みには要注意…
投資であれば、REITや株を高値で掴んでしまう…ということになりかねない。買った時点では、そこそこ有利な利回りで運用できるかもしれないが、長い目で見るとキャピタルロスで損をする…ということは、十分に考えられる。くれぐれも、高値掴みには気を付けたい。
名目金利と実質金利 - サマリー
まとめ
今回は、実質金利を気にした方がいい…ということで書いてみた。
今のドル円水準は適正なのか…という疑問から、今回の記事になった。
名目金利の動きは、ある程度読めるとすれば、問題はインフレ率(物価上昇率)をどう見るかだ。この値は予想になるので、誰かが正解を知っている…というわけではない。現在目にすることができる指標などから、予想するしかない。気の利いたところは、予想モデルを持っているようだ。
※モデルの予想が当たるかどうかは知らないが…。
日米のインフレ率(物価上昇率)を決める変数の項目は同じかもしれないが、変数の影響度は微妙に違うと思う。したがって、その差異に注目してモデルを作ればおもしろいと思う。