顧客志向はいいことだ。基本的には、顧客をビジネスの中心にすべきだろう。
だがこの考えは、成功する場合と失敗する場合がある。ビジネスを自分でやったことのある人であれば、この話は実感として納得できるかもしれない。単純に「顧客志向」といっても、奥が深いものだし、それを成功させることもむずかしいのだ(難易度が高いので価値がある)。
今回は、顧客志向を成功させることの難しさ、について書いてみたい。
目次
顧客志向とは?
顧客志向とは、モノやサービスの起点を顧客に置くということだ。
市場から顧客のニーズをすくい上げ、そのニーズに応えるモノやサービスを提供することで、ビジネスを繁栄させる、という考え方だ。この考え方に異存はない。
モノやサービスを提供する事業者も、プライベートではモノやサービスを買う消費者だ。
立場が変わると見えなくなる
なので、消費者のニーズはよくわかるはずだ…と思ってしまうが、モノやサービスを提供する立場に立ってしまうと、それが途端に見えなくなる(または見えても、自社の都合を優先させ無視(軽視)してしまう)…ということは往々にしてあることだ。
もし、自社が提供するモノやサービスに類するものを、自分は(プライベートで)全く消費しない…ということであれば、そもそも消費者のニーズは(実感としては)よくわからない。この場合は、顧客の話やそのほかのマーケティングから、消費者のニーズを探っていくことになる。
顧客志向のむずかしさ
顧客志向には、むずかしさがある。
どのニーズを満たすのか?
顧客には、多様なニーズがある。
まず、どのニーズを満たせばいいのか?ということが問題になる。
1)数的に一番多いニーズ、2)大口顧客のニーズ、3)実現可能なニーズ、判断基準は、ほかにも「潜在顧客のニーズ」などいろいろあるだろう。
直感的には、 1)数的に一番多いニーズ、を最優先として応えるべきではないか、と思うかもしれないが、それが正しいかどうかはわからない。
このように、どれが正しいのかわからないときは、「やってはいけないこと」をハッキリさせることだ。やってはいけないことのひとつは、すべてのニーズに応えようとすることだ。
利便性に支障が生じる
ボタンが一杯で複雑なテレビのリモコンを、複雑な思いで眺めたことはないだろうか?
押し間違い以外では、一度も押したことがないボタンもあるはずだ。「こんなボタン(機能)いらないのに…」と思ったこともあると思う。
すべてのニーズに応えようとすると、シンプルさが失われ、利便性に支障が生じる、ということになるのだ。※たくさんボタンがあるために、個々のボタン自体が小さくなってしまい、押しにくくなる、ということもある。これは、すべてのニーズに応えようとして、失敗したケースだ。
制約とどう折り合いをつけるのか?
制約とどう折り合いをつけるのか?ということも問題だ。
あるニーズに応えたくても、自社のリソースの関係で、実現がむずかしい…ということがある。また、(言葉が適当かどうかわからないが)利益相反という問題が生じることもある。顧客志向を目指すと利益が減ってしまう…ということもあるのだ(中長期的な利益になればいいのだが…)。
自己満足的なモノやサービスを提供してしまう
顧客の多様なニーズの中で、どのニーズに対して応えるべきか…
この正しい答えを導き出そうと思えば、正しいものさしが必要になるのだが、そのものさしを持っていないと、自分がやりたいことをやってしまうのだ。自分が作りたいモノやサービスを作ってしまう、という自己満足の罠にかかってしまう。
それでも、一応(一部の)顧客のニーズに応える形にはなっているので、顧客志向ではあると思うが、自己満足的なモノやサービスを提供しても、なかなか結果には結びつかないような気がする。
独りよがりではまずい
わたしも以前、この罠にかかったことがある。
人が何かを作るときは、どうしても自分が作りたいモノを作ってしまう…という傾向がある(その方が楽しいのだ)。自分がカッコいいと思うモノであったり、ピンとくるモノであったりするわけだ。
逆にクールではないモノやピンと来ないモノについては、顧客のニーズであっても、全く作る気がしない(笑)。
顧客志向において、独りよがりの自己満足的なモノやサービスを作らない、ということは大事なことだ。※ただし、正しい答えが自分の作りたいものであれば(正しい答えと自分の欲求が一致すれば)、成功する可能性が高くなる。
顧客が自分のニーズをわかっていない
顧客が自分のニーズをわかっていない、というケースもある。
学生のとき、数学の問題などで、「わからないところがわからない…」という思いをしたことがないだろうか?顧客サイドに、若干これと似たような感覚があるのだ。
つまり、「なんだかよくわからないけれど、満足感を感じることができない…」ということがあるのだ。なので、具体的にどこをどのように改善すればいい…ということが出てこないのだ。
たとえば、「あなたが普段使用している○○に対するニーズは何ですか?」、「どこをどのように改善すればいいですか?具体的に教えてください」と問われても、なかなか(すぐには)明確に答えられないはずだ。
自分のニーズをわかっていない顧客からのヒアリングをもとに、モノやサービスを作っても、いいものにはならないだろう。※顧客は自分のニーズをわかっていない状態で、発言することがあるので注意が必要だ(顧客の言葉を必ずしも鵜呑みにはできない、ということだ)。
ニーズを創造して応える
事業者には、顧客のニーズを創造して応えることが必要になる。
顧客のニーズを創造する、ということには、顧客が気づいていないニーズを掘り起こす、という意味もある。
たとえば、顧客が(外部の人から見れば)非合理的なことだが、昔からの慣習で続けている、ということがある。作業をしている当事者からしてみれば、それが当たり前のやり方であり、非合理的だとは考えていない。このようなケースでは、顧客のニーズを掘り起こすことで、創造することが可能だ。
顧客のニーズを創造するといっても、とっかかりがわからない…という人は、以下のシリーズの記事を参考にしてほしい。
ひとつの方法は、知識を組み合わせて考える、ということだ。 知識を組み合わせて考えることには、汎用性がある。どんなアイデアを出すときにも使える、便利な方法なのだ。
自分のニーズを考える
また、自分が抱えている強烈なニーズのことを考えてみる…という方法もある。
上で、「あなたが普段使用している○○に対するニーズは何ですか?」と問われても、なかなか明確には答えられないはずだ、と書いたが、もしかするとひとつぐらい、答えられる対象があるかもしれない。
その思いをとっかかりにして考えてみる、という方法も有効だろう。※世の中に自分のニーズを完璧に満たすものがないので、自分が創って成功する、というケースもある。
顧客志向を成功させる - サマリー
まとめ
今回は、顧客志向を成功させるむずかしさについて書いた。
そのむずかしさとは、1)どのニーズを満たすのか(優先順位のつけ方がむずかしい)、2)制約とどう折り合いをつけるのか、3)自分がやりたくなければどうするのか、4)顧客がニーズをわかっているとは限らない(顧客の言うことが正しいとは限らない)、5)ニーズを創出する必要がある、の5つだ。
「顧客志向で行こう」と口にするのは簡単だが、実践には困難が伴う。解くのがむずかしい方程式がゆえに、それを解いた会社が成功を収めるのだろう。ただ、むずかしいからといって、しり込みをしていたのでは仕方がない。いろいろなアプローチで、解く努力を続けることが大事だ。
今回の記事:「顧客志向を成功させるのは難しい」