他社との差別化をしよう、というときに、考えがちなのが「価格を下げること」だ。
ビジネスを行う人にとって、「価格が高いから売れない」という仮説は、非常に魅力的な仮説である(笑)。したがって、(合理的な根拠がなくても)この仮説に飛びつき、価格を下げようとしてしまうのだ。※もちろん、それが正解かどうかは、ケースバイケースで一概には言えない。
今回はあえて、価格競争の問題(値下げのデメリット)について書いてみたい。
目次
- 目次
- なぜ値下げをするのか?
- 値下げをすると消耗する
- 価格競争では大手が勝つ
- 価格に敏感な顧客が集まる
- 値下げキャンペーンはしない方がいい?
- その価格が当たり前になってしまう
- 値上げがむずかしくなる
- 想定外に落ちることがある
- まとめ
なぜ値下げをするのか?
なぜ値下げをするのか?だが、理由はいくつかあると思う。
・顧客のニーズ
・競合他社と比べて割高になっている
・売り上げ低下の原因が価格にあると考えられる
・提供するモノやサービスと価格のバランスがとれていない
・価格の変更以外に打つ手がない
まだほかにもあると思うが、わたしがパッと思いつくのはこれぐらいだ。
割高を是正するために…
わたしが実際に行ったことがあるのは、「競合他社と比べて割高になっている」だ。
※当初は割高ではなかったのだが、大手の競合が価格を下げたために、相対的に割高になり、やむなく価格を下げた(業界に価格破壊が生じた)。
仮に他社より良質なモノやサービスを提供していたとしても、それが潜在顧客に伝わらなければ、「他社より高い」というだけで、潜在顧客からは敬遠される。ブランド力があれば別だが、通常は中小に大手のようなブランド力はない(そこを跳ね返して、ブランド力を持った中小は強い)。
同じ土俵に上がるため
したがって、並の中小であれば、価格を競合他社並みかそれ以下にしないと、同じ土俵に上がれないのだ。そのために、常に競合他社の価格をウオッチし、それに合わせて価格を見直す…ということになる。※ただし、他者(他社)に振り回される状況というのは、好ましくないとは思う。
値下げをすると消耗する
価格を下げると、利益率が落ちる。利幅が減るので、そうなる。
その分、「量」でカバーできればいいのだが、カバーできるかどうかというのは、やってみなければわからない(シミュレーションである程度わかることもあるが、どうしてもズレはある)。
実際は、カバーできることもあれば、そうでないこともある。はっきりしているのは、稼ぐことが大変になる、ということだ。「忙しくなった割にはあまり儲からんな~」ということになる。
※量をさばくことで、経験値が上がる、というメリットはあるかもしれない。
価格競争では大手が勝つ
価格競争では、(自然に任せれば)大手が勝つようになっている。
メーカーの場合は、商品を作れば作るほど、商品1個あたりの固定費が小さくなる。
したがって、「量」を作って、さばける大手が圧倒的に有利になるのだ。中小がそれに対抗しようとすれば、もともと少ない人件費や諸経費をさらに絞る、みたいな寂しい方法しかない。
価格競争というのは体力勝負なので、何も考えずに行うと、中小に勝ち目は薄いのだ。
価格に敏感な顧客が集まる
値引きをすると、価格に敏感な顧客が集まる。
価格に敏感な顧客はドライで、ブランドロイヤリティは持っていない。
価格.com で調べて一番安いところで買うとか、アマゾンなどのショッピングサイトで、価格順に商品&セラーを表示させ、一番安いところで買う、という行動をとる。これは、商品が同じであれば、どこの店で買っても大差がないので、一番安いところで買う、という合理的な行動だ。
なので、しっかりとした固定客ではなく、移ろいやすい顧客なのだ。
顧客がこのタイプの顧客ばかりで構成されていると、安定性を欠くことになる。
こちらに価格優位性があれば、顧客を引きつけておくことができるが、少しでも優位性が落ちれば、彼らは去っていく。したがって、自社の価格優位性に対し、かなり気を遣う必要が生じる。
値下げキャンペーンはしない方がいい?
値下げキャンペーンは、新規顧客獲得に有利に働く、と考えたことがある。
たしかに、新規顧客獲得にはなるかもしれないが、キャンペーンで獲得した顧客がその後、優良顧客になるかどうかは疑わしい。
キャンペーンに反応する顧客は、価格に敏感な顧客だからだ。
彼らは、(価格で購入を決めるので)安いときだけ買う、という行動をとりがちだ。なので、単発で終わる(キャンペーンが終了したら利用しない)、ということがよくある。
※値引きなしの通常価格では、購入 or 利用しないのだ。
その価格が当たり前になってしまう
価格を下げると、その価格が当たり前になってしまう、ということがある。
たとえば、株の売買に伴う手数料だ。
今では50万円の約定金額で、手数料が500円以下というのは当たり前だ。
だが、以前はとてもこのような手数料で売買することはできなかった。今となっては、500円でも高いような気がするが(笑)。このように、モノやサービスに対する対価の(顧客側の)感覚が全く変わってくるのだ。※この感覚は不可逆的ではないが、それに近いものがある。
値上げがむずかしくなる
値下げをすると、値上げがむずかしくなる。
そもそも価格を上げる、ということがむずかしい。価格を上げることで、客離れを招くからだ(実際はそうでなくても、そう考えがちだ、ということもある)。先に述べたように、価格に敏感な顧客が多くを占める場合、潮が引くようにサッといなくなる可能性があるのだ。
値上げをするときは、顧客がある程度納得できる形で行うことになるのだが、
ユニクロは円安に伴う原価の上昇を理由に、秋冬商品から約2割の商品を平均1割値上げしている。2014年に続く2年連続の値上げとなり、割高感は強まっている。岡崎CFOは「値上げの影響は限定的」とするが、客離れが起きていることは否めない。
出典:ユニクロの失速は「暖冬」だけが原因ではない
このような客離れが起きてしまうのだ。
想定外に落ちることがある
ただし事業者は、値上げによる(ある程度の)客離れは想定している。
値上げにより利益率が上がるので、そことの兼ね合いがどうか、ということだ。ユニクロの場合は、失速しているようだ。自分自身の感情を考えても、ユニクロは「高くなった」というイメージがある。そのイメージが強いので、今現在は、積極的にユニクロで買おうとは思わない。
ただ、よく見ると月ごとにジワジワと増加率は下がっている。
値上げによる客単価の上昇で客数の減少を補うという狙いが、「空振り」となる可能性が出てきたようだ。
出典:ユニクロ販売、なぜか突然の「失速」 相次ぐ値上げと「客離れ」の因果関係
「客単価の上昇で客数の減少を補う」ことは、大手にしてもなかなかむずかしいことがわかる。
追記:その後、ユニクロは危機感を抱き、値下げを始めている。
以上、値下げのデメリットを書いたが、値下げが有効な場合もなくはない。値下げをする場合は、値下げのデメリットを踏まえた上で、戦略的に行う必要がある、ということだ。
※価格よりも価値で勝負することも考えた方がいいだろう。
まとめ
今回は、値下げがダメな理由について書いた。
「価格が高いから売れない」という仮説は、非常に魅力的な仮説だ(笑)。
もちろんそれが正しい場合もある。全く同じ商品やサービスであれば、価格の高い方が売れないのは、当たり前のことだ。ブランドに価値を感じる人以外は、価格の安い方を選ぶだろう。
ただ、合理的な根拠なしに、「価格が高いから売れない」⇒「値下げしよう」とは思わない方がいい。今回書いたように、値下げのデメリットがかなりあるからだ。価格競争をしない、と決めている経営者もいるが、そういう考え方もありだろう(その分、商品やサービスの価値を上げる)。
なので、安易な誘惑に負けず、値下げをするときは慎重に考えた方がいいだろう。
今回の記事:「価格競争の問題|値下げがダメな理由」