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長谷川穂積というボクサー

長谷川穂積選手の試合が熱かった。

2016年9月16日、WBCスーパーバンタム級のタイトルマッチが行われた。

その試合で、挑戦者の長谷川穂積選手がチャンピオンのウーゴ・ルイスをTKOで下し、5年ぶりに世界チャンピオンに返り咲いた。長谷川選手は、不利とされた下馬評を鮮やかに覆して見せた。

当時の35歳9か月という年齢は(日本では)史上最年長ということになる。長谷川選手は、バンタム級フェザー級スーパーバンタム級を制し日本の選手では4人目の3階級制覇を達成した。

今回は、長谷川穂積という<歴史に名を残す>名ボクサーについて書いてみたい。

目次

 

ウィラポン戦で道を開く

伝説の王者に挑戦する

かつて、ウィラポン・ナコンルアンプロモーションという、名選手がいた。

ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(Veeraphol Nakhornluang Promotion、男性、1968年11月16日 - )は、タイ王国の元ムエタイ選手、プロボクサー。本名はティーラポン・サーラーングラーン。タイの国民栄誉賞を4度も受賞しており、カオサイ・ギャラクシーと並ぶタイの英雄ムエタイで3階級制覇の後、国際式ボクシングへ転向。僅か4戦目でWBA世界バンタム級王座を獲得。その後はWBC世界バンタム級王座を14度防衛した。
出典:ウィラポン・ナコンルアンプロモーション - Wikipedia

ウィラポンは、1998年、99年と辰吉丈一郎をKO、TKOで降している。

2000年、01年、03年、04年には、(後に世界チャンピオンになる)西岡利晃の挑戦を受け、2勝2分けと挑戦をことごとく退けている。※西岡はウィラポンの牙城を崩せなかった。

ウィラポンサイドからみれば、アウェーで(期待と人気の高い)日本人の有力選手に対し、「負けなし」という成績を上げている。そのことからも、いかに強い選手だったかがわかるだろう。

ウィラポンに勝ち道を開く

長谷川選手は、2005年にウィラポンに挑戦する(西岡選手が0-3の大差判定負けを喫した翌年だ)。

当時のウィラポンの戦績は、47勝(33KO)1敗2分、王座を14度防衛中であり、年齢は36歳であった。年齢的に全盛時は過ぎているが、王者として君臨中であり、まだまだ健在、というところだったと思う。

※その後のウィラポンの戦績をみても、余力は十分にあったといえる。

この試合は、序盤長谷川、中盤ウィラポン、終盤シーソーゲームという、スリリングな試合になっている。結果、長谷川が3-0の判定で勝利。この試合は、年間最高試合に選ばれている。

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芸術的なカウンターが

翌年、再戦があった。今度は、ウィラポンが長谷川に挑戦する立場だ。

ウィラポンは、長谷川に負けた後、5試合を行い、全勝(4KO)という記録を残していた。そして、ランキング1位の指名挑戦者として、長谷川に挑戦する立場になったのだ。

※52勝(37KO)2敗2分という戦績だった。

この試合では、長谷川の見事なカウンターがさく裂している。

そのときは、9R開始早々にきた。

長谷川が右を出したと思ったら、ウィラポンが前のめりに倒れている。

通常の映像では、何が起ったのかハッキリわからなかったが、スローでみるとよくわかる。

長谷川が(相手のパンチを誘う)左の捨てパンチを出す。ウィラポンは、それを捨てパンチだと思わず、チャンスとみてカウンターを取りに行く。そこを狙いすまして右のカウンター一閃だ。

※本当に技術レベルの高い高度な戦いになった。

ボクシング史に残る一閃

長谷川が繰り出したパンチは、カウンターのカウンターなのだ(驚)。

日本人選手が世界戦でこのクラスの相手に、これだけ見事なカウンターを決める、というシーンはちょっと見たことがない。日本のボクシングの歴史に残る、芸術的なカウンターと言っていいだろう。

※この試合も、年間最高試合に選ばれている。

 

モンティエル戦後…

モンティエル戦の敗北

長谷川は、その後10回まで防衛回数を伸ばす。

11度目の防衛をかけて、挑戦者に迎えたのが、フェルナンド・モンティエルだ。

※事実上の統一戦になった。モンティエルは三階級制覇の王者。

試合は序盤から長谷川が優位に進めていたが、4回終了間際、モンティエルの左フックをまともに浴び大きくグラつくと、その後の連打でダウン寸前に陥る。そして、ラウンド終了のゴングとほぼ同時(2分59秒)にレフェリーストップが掛かりTKO負け。この瞬間、5年間保持してきた世界王座から陥落した。
出典:長谷川穂積 - Wikipedia

わたしもこの見方に賛成だ。

長谷川がモンティエルの左フックをまともにもらうまでは、やや長谷川ペースで試合が進んでいた。※モンティエルが、試合全体の戦略として「後の先」を仕掛けた、という見方もある。

とにかく、一瞬も目を離せない、息の詰まるような高度な技術戦だった

この敗戦には不運な面が

この試合では、長谷川には不運なこともあった。

良いパンチをもらった後、ロープ際に後退しロープを掴んでしまったのだ(倒れまいとして、本能的に掴んだのかもしれない)。このことが、仇になった。クリンチもできないし、倒れることもできない…という状態になった。

※意識が飛んでいたようにも見えるので、クリンチは無理だったかもしれない。

ラウンド終了のゴングと同時にストップがかかる、という不運もあった。モンティエルは実力者で、確かに強いのだが、この敗戦は(長谷川にとって)運にも見放された手痛い敗戦になった。

※キャリア的にも痛い敗戦になってしまった…。

二階級制覇を達成するが…

その後長谷川は、バンタム級フェザー級、と階級を変更する。

※S・バンタムを飛ばす転級になる。

ここで、世界フェザー級王座決定戦に出場し、フアン・カルロス・ブルゴスと王座を争うことになる。この対戦で(3-0の判定で)ブルゴスを降し、飛び級での二階級制覇を達成した。

ジョニゴンに敗れる

そして、フェザー級の初防衛戦では、ジョニー・ゴンザレスを挑戦者に迎える。

ジョニー・ゴンサレス(Jhonny González、男性、1981年9月15日 - )は、メキシコのプロボクサー。イダルゴ州パチューカ出身。第13代WBO世界バンタム級王者。第43代・第46代WBC世界フェザー級王者。長身で、長いリーチから左ジャブを多く繰り出して試合を支配していき、時には打ちつ打たれつの激闘を繰り広げるハードパンチャーであり人気も高い。
出典:ジョニー・ゴンザレス - Wikipedia

西岡選手が、アウェーで左の一発で倒した選手だ。※おもしろいもので、西岡がどうしても勝てなかった相手に長谷川が勝ち、西岡が勝った相手に長谷川が負ける、という構図ができている。

長谷川は、ジョニゴンに打ち合いを挑み、敗れる(TKO負け)。このクラスになると、相手のパンチが強くなる。長谷川のパンチで打ち合うのは危険だ…と多くの人が思ったのではないか。

フェザー級では、体格やパンチ力の差が明らかだったのだ。

 

4人目の三階級制覇へ

ドラマのような三階級制覇

長谷川は、2013年にS・バンタム級に転級した。

※飛ばしたクラスに戻った、ということだ。

2014年にIBF世界スーパーバンタム級王者、キコ・マルチネスと対戦するが、TKOで敗れる。このあたりから、「そろそろ引退では…」という声が大きくなってきたように思う

その後、WBC世界スーパーバンタム級9位のオラシオ・ガルシア、WBO世界スーパーフェザー級5位のカルロス・ルイスと試合を行い(危ない場面もあったが)なんとか勝っている。

ここで特筆すべきは、強い相手と戦っている、ということだ

普通であれば復帰戦では、自分よりも実力の劣る相手と戦い、調整するなり、自信を回復する、ということをするものだ。しかし、長谷川はあえて強い相手と試合をしている。二戦とも強い相手であり、負ける可能性も十分にあった。そこに、長谷川選手の何か強い意志を感じるのだ。

ウーゴ・ルイスとの戦い

ウーゴ・ルイスは、亀田興毅とも戦った経験がある選手だ。

2012年12月、当時、WBA世界バンタム級暫定王者だった彼は、正規王者の亀田興毅と大阪でグローブを交えたのだ。結果は1-2のスプリット・デシジョンでの敗北。どちらが勝者になってもいいような試合で、ルイスに対しても、それほど強烈な印象は持てなかった。
出典:長谷川穂積、最後の挑戦……"奇跡"は起こるか!?

わたしも同じ見方だ。亀田興毅と対戦した当時のルイスは、凡庸な選手に見えた。スピードがなく、パンチもないごく普通の選手…という印象だった。だが、ルイスは進化していた。

しかし、その後、ルイスは変貌を遂げている。スーパーバンタム級に転向以降、スタイルがアグレッシブになりパンチ力も増した観がある。今年2月、米国アナハイムでフリオ・セハ(メキシコ)と再戦、わずか1ラウンド51秒でTKO勝利しWBA世界スーパーバンタム級王者に就くが、このときの右フックの威力は凄まじかった。実力、そして勢いにおいて絶頂時にある王者ルイスは、峠を越えた長谷川を上回っているのだ
出典:長谷川穂積、最後の挑戦……"奇跡"は起こるか!?

バンタム級からスーパーバンタム級に階級を上げたせいもあるだろう。

体つきもガッチリとして、明らかに以前よりは、パンチの威力が増しているように見えた。

※全体的に、力強くなっているのだ。

試合のペースを掴む

ルイスは、自分からグイグイ圧力をかけていく、というタイプではない。

どちらかといえば、チャンスを待って攻勢に出る、というタイプだ。長谷川は、捨てパンチと有効打を上手く混ぜながら、ペースを握ろうとする。

ディフェンスについても、これまで以上に気を遣っているように見えた。体もよく動いているし、カウンターのカウンターを狙うようなシーンもあった。途中までの採点は、バッティングによる減点の影響もありルイスだったが、やや長谷川がペースを握っていたように思う。

ロープを背にして打ち合う

長谷川は、冷静だった

相手とグローブを軽く合わせるような仕草が目についたが、あれは冷静でないとできないことだろう。9Rのロープを背にしたすさまじい打ち合いも、冷静に相手の動きを見ていたように思う。

相手のパンチをかわしながら、打ち勝っている。

9回、絶体絶命のピンチを勝機に変えた。ルイスの左アッパーにぐらついてロープを背負ったが、長谷川は「攻撃が粗い。チャンスだ」と冷静だった。相手のパンチを巧みにかわし、猛然と連打。一気に形勢を逆転させた。
出典:壮絶な打ち合い、骨折すら乗り越え…35歳長谷川「まるでドラマ」の返り咲き

やはり、冷静だったようだ。

長谷川はここをこの試合の勝負所だとみて、一気に勝負をかけたのだろう。この冷静さと勝負勘の良さ、リスクを厭わない勇気、勝負をかけてモノにできる実力、というのは大したものだ。

つくづく、長谷川選手はすごいボクサーだと思う。

 

長谷川はプロ中のプロ…

試合がとてもおもしろい

それにしても、長谷川選手の試合はおもしろい。

※「年間最高試合」を何度も行っていることからも、おもしろさがわかる。

なぜおもしろいのか…と考えてみたのだが、1)高い攻防の技術がある、2)攻防一体になっている、3)リスクをとってチャレンジする、4)積極性がある、ということだろうか。

やはり、ボクシングの醍醐味は、「打たれずに打つ」というところにあると思う。

打たれずに打つためには、高い攻防の技術が必要になる。また、「攻防一体」というのもボクシングの醍醐味だろう。

技術の高い選手というのは、攻防が一体になっているものだ。相手のパンチを外してカウンターを入れる、という高度な攻撃は、攻防一体を実現できる選手でないとできないものだ。

リスクをとって挑戦する

長谷川選手は、リスクをとってチャレンジする。ここぞという場面では、打ち合うのだ。

これまでは、この姿勢が裏目に出ることがあった。打ち合わなくていい場面で打ち合い、(打ち合いの中で)被弾して負ける…というパターンがあったのだ。しかし、今回は冷静だった。

打ち合いの最中のディフェンスが、ほぼ完ぺきだったのだ。

相手のパンチを間一髪で巧みにかわし、自分のパンチをカウンターで当てる、という見事な打ち合いを行った。そのため、ラッシュをかけたウーゴ・ルイスの方が、ダメージを受ける、という結果になった。近年の日本人選手の試合では、見たことのないようなすばらしい攻防だった。

積極性がすばらしかった

さらに、長谷川選手には積極性がある。

「リスクをとってチャレンジする」という姿勢も、積極性があるためだ。

長谷川選手は、「ハードパンチャー」ということではない。だが、全盛時はおもしろいようにKOの山を築いた。これは、積極的に攻めたり、カウンターを取りに行ったためだ。長谷川選手の試合では、退屈なそれやラウンドがないのだ。※長谷川穂積選手は、プロ中のプロなのだ。

 

長谷川穂積というボクサー - サマリー

まとめ

今回は、長谷川穂積という名ボクサーについて書いてみた。

長谷川選手の試合は、一瞬たりとも目が離せず、本当におもしろかった。

見ている人の3分をあっという間に奪う、という選手だった。観客が何を望んでいるのか…ということを熟知したプロ中のプロで、リスクをとって挑戦することの大切さを教えてくれた選手でもある。

また、挫折した後からのリカバリーも見事だった。

気持ちを切らず、腐らず、モチベーションを保ちつつ、地味な努力を重ねたのだろう。その努力が最後に実を結ぶ…という形になったが必然だったのだろう。ロールモデルになる名選手だった。

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