シードでいえば、錦織が第5シード、フェデラーが第17シード。
年齢でいえば、錦織27歳、フェデラー35歳。フェデラーは故障明け(左ひざのけが)で半年のブランクあり、年齢的にもピークを過ぎている、マレーもジョコビッチもすでに敗退している…という状況から、錦織にとっては勝たなくてはいけない試合だったと思う。
結果は、3時間24分におよぶ5セットの戦いになり、2-3で敗退。スコアは競っていたが、内容にはそれ以上の差があったように思う(端的に言えば、両者のサーブ力にかなりの差がある)。
今回は、この試合における錦織圭とフェデラーの差について書いてみたい。
目次
- 目次
- フェデラーのサーブは一流
- セカンドサービスが強い
- 錦織はサーブが弱い
- サーブに関するスタッツは
- 1st の確率を上げないと勝てない
- 体力の使い方にも差がある
- 試合運びに巧拙がある
- 錦織圭の弱点が露わに - サマリー
フェデラーのサーブは一流
両者の差で一番わかりやすいのが、サーブだろう。
第1セットはワイドサーブ、第2セットはセンターとボディー、第3セットは全部散らした。それが老かいさ。確率がいいだけじゃない
出典:【全豪OP】フェデラーに敗れ8強ならず 錦織“崩壊”は第1セットから始まっていた
フェデラーは、いわゆる「ビッグサーバー」という選手ではない。
だが、無理のない美しいフォームから、そこそこのスピードでキレのあるサーブを放ってくる。
ただ、直線的にスピードでエースを取る、ということは意図しておらず、プレースメントの精度を保ちながら、相手の読みを外すことを意識していると思う(配球の妙がある)。その結果、エースになったり、サーブで優位に立ちポイントをとりやすくなる…ということだ。
※ファーストが入ったときは、8割程度ポイントを取る。
セカンドサービスが強い
フェデラーのセカンドサービスは強力だ。
スピードはファーストより落ちるが、斜めに強い回転をかけるため、ある意味ファーストより取りにくいのではないか…とすら思うことがある。上の動画で確認してほしいが、ボールのキックが半端なくすごいので、受ける選手のラケットが届かない…というシーンがよくある。山を張らずに後ろで待っていても、いいところに入ってしまうと、まともにリターンできないだろう。
※現在は、以前より回転量が落ちているとは思うが…。
錦織はサーブが弱い
錦織の場合は、サーブが弱点だ。
錦織はトスを上げて構えた時に右脇が締まったような状態になってしまう。そのため、そこから右肘を持ち上げる余分な動作が必要になる。その間にもボールは動くので打点にズレが生じる。トスの高さを含めて全てのタイミングが合っている時は問題ないが、サーブの出来にムラがあるのはそれが大きな原因だ。
出典:【村上武資の目】錦織唯一の弱点 サーブフォームに見えた課題
サーブが弱いので、サーブで優位に立つ…ということがなかなかできない。
たとえファーストサーブが入っても、優位に立つことができる…とは、言い切れない。
セカンドの場合は、相手がフェデラークラスになると、相手の方が有利ではないか…とすら思ってしまう(特にアドコートの場合)。
弱いセカンドを叩かれる
サーブをフェデラーと比べた場合、スピード、回転量、プレースメント、すべてにおいてフェデラーの方が上だと思う。
今回の試合でも、アド側からのセカンドを叩かれて、リターンエースをもらう・不利になる…というケースが結構あった。
2016年に錦織のプレーを見たときは、サーブのスピードやキレがやや増し、以前よりも改善されているな…という印象を持ったのだが、今回の試合では、以前の状態に戻ってしまったように見えた。※サーブの調子がイマイチ…という話もあったので、一時的なことかもしれないが。
サーブに関するスタッツは
この試合のサーブに関する両者のスタッツだ。
サービスエース: 5 < 24
1stサーブの確率: 65 < 68
1stサーブからポイントを得た%: 68 < 80
2ndサーブからポイントを得た%: 42 < 48
前者が錦織で後者がフェデラーだが、すべてにおいてフェデラーが上回っている。
このスタッツをみると、フェデラーがファーストサーブを入れてきたときは、ほとんど勝ち目がない…ということになる。
勝負はすでについていた
逆に、第4セットをよく取ったな…という気がする。
裏を返せば、錦織は第4セットでかなり力を使った…ということになる。なので、スコア的には大熱戦だったように見えるが、勝負は第4セットが終わった時点で、ついていたのだろうと思う。
1st の確率を上げないと勝てない
このデータから見えてくることは、フェデラーに勝つためには1stサーブの確率を上げなければいけない…ということだ。
その確率を80%ぐらいにすれば、この試合のフェデラーと互角になる。
錦織の今大会の最高値は2回戦の69%なので、80%というのは高い目標だ。もうひとつの道として、簡単ではないと思うが、サーブの質自体を上げる…という方法もある(プレースメントの精度を高めたり読みを外すなど)。
※サーブの質をあげれば、1stサーブでポイントする%も上がる。
体力の使い方にも差がある
錦織は昔から「体力がもたない」ということがよくあった。
近年では、克服できたのかな…と思っていたが、年齢的には20代後半にさしかかっているので、この問題がまた出てくるのかもしれない。
このことは、サーブが弱いという点ともリンクしている。錦織の場合は、自身のサービスゲームでキープできたとしても、(ラリー戦になるため)時間がかかってしまうのだ。
※サービスゲームは、サーブをしなければいけないので、その分体力を消耗する。
精神的にも消耗する
サービスゲームは、キープすることが勝つための前提だ。
このゲームは落とせない…という緊張感が加わるので、ゲームが長くなると余計に消耗するのだ。
サービスゲームを短めに終わらすことのできるフェデラーに比べると、サービスゲームが長くなりやすい錦織は、どうしても体力的に不利になるのだ。
試合運びに巧拙がある
もちろん、錦織とフェデラーの差は、サーブだけではない。
フェデラーは、テニス史上No.1と評価されるほどの選手なので、細かくみればいろいろな差があるのだろう。
フェデラーの片手バックハンドの(フラット気味にボールを潰して打ち抜く)逆クロス気味のショットは、まさに芸術品だ。フェデラーはオールラウンドプレーヤーで、プレーのどこをとっても所作が美しい。スポーツを芸術にまで高めることのできる稀有な選手なのだ。
勝負所を逃した錦織…
それはともかく(笑)、ここでは試合運びの巧拙について触れる。
本当に強い人、4大大会に勝つ人は一度つかんだ流れを相手に渡したりはしない。圭は自分から流れを渡してしまう。どうしてなんだ?と昨年聞いた時も「そういう方向に流れちゃうんです」と言っていた
出典:【松岡修造の目】尊敬の念がミス呼んだ 圭がフェデラーを強くしてしまった
この試合を振り返ると、第1セットが大事だったな…ということになる。
この試合にどうすれば勝てたのか…ということだが、「フェデラーのファーストサーブが入らない時間帯に、できるだけたくさんのゲームを取ること」を実践できていれば、勝てていたと思う。
つまり、第1セットを当初の勢いのまま取りきることが必要だったのだ。
マイケル・チャン(コーチ)も、「5―1からもっと早くセットを取っていれば…」というコメントを残している。フェデラーに立ち直る余計な時間を与えてしまった…ということだ。
※あとからわかることではあるが、勝負どころを逃した…ということだ。
錦織圭の弱点が露わに - サマリー
まとめ
今後、錦織がフェデラーに勝つためにはどうすればいいのだろうか。
先に述べたように、1stサーブの確率を上げる、または、サーブ自体の質を上げる必要がある。
また、勝負所を見極めてギアを上げる…という技術も必要になる。そうすれば、「一度つかんだ流れを相手に渡したりはしない」ということになるのだろう。
さらに、ダンテコーチが試合前に指摘したように、フェデラーをベースラインに釘付けにするような深い配球が必要だ。フェデラーは、錦織のいいショットでも、深めに返して立て直す・主導権を握る…というプレーをしていた(プレースメントの精度が高い)。錦織にも同様のプレーが必要になるだろう。
最後に、錦織の優れた点も書いておきたい。
上でフェデラーが2ndサーブからポイントを得た%が48%だと書いたが、フェデラーのQFまでのデータをみると、54~68%になっている。ということは、錦織の2ndサーブに対するリターンが素晴らしい、ということだ(弱点を改善しつつ、特長はさらに伸ばしたい)。