生存バイアスという言葉をご存じだろうか。
実は世の中にあふれている情報というのは、生存バイアスがかかったものが多い。語れるのは生存者だけであり、それ以外のものは、語るチャンスさえない( or 著しく限られる)ためだ。
※敗者が語っても関心を持ってもらえない…ということもある。
今回は、生存バイアスについて書いてみたい。
目次
- 目次
- 生存バイアスとは
- 体罰はOKかも…
- 人生が狂った人の話がない
- 生き残った人のデータでは?
- 歴史にもバイアスがかかる
- 勝者に注目する心理がある
- 生存バイアスから逃れる術は
- 生存バイアスでできている - サマリー
生存バイアスとは
生存バイアスは、生存者バイアスと呼ばれることもある。
生存バイアスとは、脱落したもの、淘汰されたものを評価することなく、生き残ったもののみを評価する…というバイアス(偏り)のことだ。「敗者を無視し、勝者のみを評価する偏り」としてもいいだろう。※そのため、その偏った評価に基づく判断は間違いになりやすい。
体罰はOKかも…
たとえば、体罰を肯定する成功者がいるとしよう。
※成功者の話は、メディアを通じて広がる。
その人は、自らの体験から「体罰は必要だ」という主張をするだろう。
自分は体罰があったからこそ、道を誤らずにすんだ、精神的に強くなった、などとし、
子供に対し愛情があれば、時には手をあげても構わない、そのとき子供が(体罰の意味を)わからなくても、あとで必ず理解してくれる…と言うかもしれない。
もし、公にこのような主張をする人(成功者)が多ければ、実際に体罰を受けて嫌な思いをした人以外は、「そんなものかな」と思い、体罰を肯定する方向に気持ちが動くかもしれない。
人生が狂った人の話がない
体罰により人生を狂わされた人の話が、考慮されていないためだ。
※体罰がプラスになり(少なくとも大きなマイナスにならず)生き残った人の話しかない。
体罰の場合は、体罰NGの世の中の流れやそれを否定する成功者もいるので、実際にはこのようなことはないと思うが、もし体罰を肯定する成功者が多ければ、そうなってしまうだろう。
※勝者は、敗者とは比べ物にならないぐらいの強い影響力を持っている。
生き残った人のデータでは?
営業活動を有利に運ぶための恣意的なデータがある。
たとえば株式やFXを売り込む際の、顧客の声やデータなどが典型的です。証券会社やFX会社は、マーケティングのツールとして、たとえば3年以上利用している顧客の平均リターンの数字を示すかもしれません。その数字はおそらく、初心者には魅力的な数字と映るでしょう。
出典:ホントにそんなにうまくいく?――生存バイアスの罠
この場合は、3年以上利用している、という点が肝だ。
投資の場合、損を出して3年以内に撤退する…という人が一定の割合で存在する。得した場合はほとんど撤退しないので、損をして撤退する人と得をして撤退する人が同じ割合だとは考えにくい。
したがって、これは生き残った人のデータ、ということになるのだ。
歴史にもバイアスがかかる
我々が学ぶ歴史にも、バイアスがかかっている。
歴史上の勝者が、自分たちに有利な歴史を残すためだ。よく死人に口なしというが、歴史上の敗者が歴史を残すことは困難だ。仮に残せたとしても、歴史のメインストリームにくることはない。
※敗者の影響力は小さいためだ。
このことについては、当然認識されている。したがって、勝者でも敗者でもない第三者が語る歴史などにより、バイアスを修正しようとする試みがなされるのだろうと思う。
勝者に注目する心理がある
われわれには、勝者に注目する心理がある。
勝者を称賛し、勝者の言葉を重く、ありがたく受け止めるが、敗者は(ある意味)なかったかのように扱われ、敗者の言葉を重く、ありがたく受け止めようとする人は少ないと思う。
※このことが、生存バイアスの後押しをすることになっている。
著名な経営者が書いた本はベストセラーになるが、失敗した経営者は、本を書く機会さえ与えられない。例外的に失敗本を書く経営者がいるが、その場合でも、後に成功しているから書けるのだ。
本当に失敗して、その後ジリ貧で終わる人の言葉は世に出ない。
生存バイアスから逃れる術は
敗者のことを考える
ここからは、生存バイアスに嵌らないための対策を書いてみたい。
まずは、脱落したもの、淘汰されたものについて考える、ということだ。
たとえば、オリンピックのひとりのメダリストの背後には、決勝で敗れたもの、予選で敗れたもの、国内の選考の試合で敗れたもの、その前の段階の試合で敗れたもの…無数の敗者がいる。
メディアによる特集などがなければ、我々の目に入るのはせいぜいオリンピックの予選で敗れたものぐらいまでだ。※ちなみに、それを伝えるキャスターなどにも、同様の構図がある。
その敗者のことに思いをはせれば、生存バイアスを補正できるかもしれない。
期待値を求めたい
ざっくりでもいいので、期待値を求めたい。
たとえば、先に株式やFXなどの投資の例を挙げたが、ある個人がFXで長期間安定的に利益を上げることがあるにしても、全体が長期間安定的に利益を上げる、ということはありえない。
FX投資は、ゼロサム(またはマイナスサム)になるためだ。
※期待値は、ゼロかマイナスになる。
この期待値の計算ができていれば、FXの投資家全体が長期間安定的に利益を上げる、というデータには、「生存バイアスがかかっているのでは…」と思うことができるだろう。
大体でも期待値がわかれば、大きく判断を間違うことはないのだ。
自分の頭で考えたい
生存バイアスの存在を理解して、よく自分の頭で考えたい。
わたしたちがメディアを通じて受けとる情報というのは、淘汰された後の情報なのだ。
したがって、淘汰された部分は自分の頭で補うしかない。
上でも書いたが、成功者の言葉は重く、ありがたく受け止めがちだ。成功者の言葉が自分の考えを代弁するようなものであれば、「わが意を得たり」とばかりうれしくなるが、それが正しいとは限らない。また、成功者の方法論やアドバイスが正しいのかどうか、成功者のやり方が自分に合うかどうかもわからない。
わたしもよくブログの記事の中で、成功者のコメントなどを引用することがあるが(笑)、それを頭から絶対的に正しいものだとはせず、自分の頭でよく考えてみることだ。
本質を見極める努力を
本質を見極める、ということも大事だと思う。
このことについては、以下の記事で詳しく書いた。
ひとつ紹介すると、視座を変えるために時間軸・空間軸を伸ばして考える、という方法がある。
たとえば、幕末の日本史を学ぶ際に、その時代の日本の出来事だけを見ていたのではダメだ。空間軸を伸ばして、その時代の世界の出来事を見ることで、はじめてわかることが結構あるのだ。
※世界の動きが日本の動きに影響を及ぼしていることがわかる。
本質を抽出したい
また、素直に聞く耳を持つ態度も必要だ。
素直な人は、人の話をインプットとして(自分に)取り込むことができる。人の話を自身の成長の糧にすることができる、と言ってもいいだろう(非常に効率がいいのだ)。これが素直な人が伸びる理由のひとつだ。
出典:会社で伸びる人の特徴!共通点があります
成功者の言葉であっても、それが正しいかどうかはわからない。
だからと言って、「聞く耳を持たなくてもいい…」ということではない。
彼らの言葉は、インプットとして素直に取り込みたい。ただ、それを鵜呑みにせず、自分の頭で考えることが必要だ。そして、その人の特徴とマッチした部分や特化した部分ではなく、汎用性のある本質の部分を抽出して、自分用にカスタマイズすればいいのではないかと思う。
それが、インプットを「糧にする」ということだろう。
生存バイアスでできている - サマリー
まとめ
世の中は、生存バイアスで満ち溢れている。
影響力の強い人(勝者)が発する言葉や情報が、伝わりやすくなるためだ。
このことは昔からそうだし、今もこれからも変わらない。
※今では個人による情報の発信が容易になったが、敗者が自分の<本当の>失敗を赤裸々に語ることには心理的な抵抗があるし、語ったとしてもそれが注目されることはほとんどない。
したがって、ぼんやりしていると、自分が受信している情報が正しいのかな…と思ってしまう。このバイアスを正すために、わたしたちは、期待値を求めたり、自分の頭でよく考えたり、本質を見極める…という作業をしなければいけないのだ。
バイアスのかかったインプットを自分の糧にするためには、それ相応の努力が必要だ。
今回の記事:「世の中は生存バイアスでできている」